14.2.10

14/02/10 熱さ

日曜日。

来客があった。Tという現在別のハイスクールで教師をしている男性だ。彼はかつてKaliと呼ばれるマヌスの真ん中、山の中の田舎の小学校で日本人ボランティアとともに教師をしていた経験がある。

彼はその後、大学に行き、特別支援が必要な子ども達への教育を学んでマヌスに帰ってきた。彼は使命感に燃えている。障害を持つこどもはこのマヌスにもいる。彼はそんな人々のために自分の知識を活かしたいということであったが、そのような施設はマヌスには無い。そのため現在近所にあるエレメンタリースクール(小学校低学年が学ぶ学校)にそのような場所を作ろうとした。しかし、エレメンタリースクールの人々は受け入れはしたが、協力は全くしなかった。Tに仕事をさせなかった。エレメンタリースクールの教師は学位を持っていないことが多く、大学を出て、指導者的な立場にTが立つことになる。これを職員たちは嫌ったとTは言っている。嫉妬。PNGではこういう問題がよく起こるらしい。

彼は仕事が出来ないので、Ecom high school(Grade9/10の二学年が通う学校)で教師をすることにしたのだ。

障害と言っても様々。外見ですぐ分かるものから、観察が必要なものまで。特に学習障害と呼ばれるものは、教師が注意深く一人一人に目を向けていないと気付かれることなく、ただ授業から脱落するということがある。自分には、実際多くの教師にもそのような生徒に対応する技術がない。彼の知識はきっと高校でも活かされる。Tは例えば目の見えない人を例に挙げた。

「目は閉じているが、脳が閉じている訳ではない。教師が適切な援助をすれば、彼らは学び、様々なことが出来るようになる。」

熱い人だった。PNGにも本気で生きている人がいる。それが嬉しかった。

そういう人には私も心からぶつかれるから。

自分の周りにはそういう人がいる。こういう人たちを大事にしたい。

13.2.10

13/02/10 頼みごと

土曜日。

あることを頼まれた。自分の作ったカレーを、かつて食べに来てくれなかったサッカーのチームメイト。夜中10時、眠ろうとしていたところ突然訪ねてきた。学校の修了証の偽造だった。明らかに違法行為。ダメでしょ。「日本だと捕まるけど、PNGなら誰も気づかないから大丈夫」と言う。警察になりたいから応募するのに必要らしい。彼は自分の甥っこの修了書を持ってきて名前の部分を変えてくれと言っていた。

「自分には出来ない。君が嫌いな訳じゃないんだけどね。」

今日、またあることを頼まれた。同僚のMr.P。市場でばったり。私を探していたらしい。Emailの送信だった。彼の話によると、携帯電話(この国ではかなり普及している)に、何かのクジのようなものが当たったというメッセージが来たという。何でもイギリスから。そのイギリスの人がMr.P(正確には彼の奥さん)の銀行口座の番号を知りたがっているから、それを伝えたいという状況らしい。メールで送るように指示されたらしい。Mr.Pは嬉しそうだった。私は詐欺では?という疑いを捨てられなかった。それを正直に告げたが、彼は大丈夫と言い張る。送ってくれという手書きの文面には本当に親切に感謝して、銀行口座が書いてある。前、銀行に行ったとき、銀行口座からなんと講座番号とサインだけでお金が下ろせた、という事実がある。(いつもはカードと暗証番号だが、現在カードは強盗被害時から紛失中)。やはりまずいと思い、番号を載せることだけは何とか思いとどまらせた。この島でネットを使っている人なんてほとんどいないと思われる、そんな島に居る彼らにウェブの世界の厳しさなんて必要なかったのだろう。しかし、グローバル化は進んでいて、避けては通れない道にある。誰でも信頼していいわけじゃない、やったらまずいことがある。

そういう知識はこの世界を生きるための一種の技術だ。海に浸食されつつあるLou島の村の人々を思い出した。勝手にやってくるこの波にいかに向き合うか、長い歴史、きっとこれからも心無いひとによってもたらされうる、様々な波にただ流されるのでなく、それに対して立ち向かえるような知恵を付けて欲しい。

 

一部の人の心の中に私が居るのだな、それは今は「便利屋さん」のように映っているかもしれない。でも、モノのやり取りと心の通い合いを区別することは簡単ではない。今朝、市場でムームータピオカ食えよ!、と売り手に差し出された。無料でいいと言う。この国、ある人が無い人に与えるのが当たり前。親切と気持ち悪い行動は紙一重という日本とは違う。当たり前のように親切に出来て、されたらお礼を言う。お礼をする。

Louの村人はよく知らない外国人である私を3週間も面倒み続けた上に土産まで持たせたのだ。Lou特産の鳥の卵。バスの中でこの卵は不運にも私の荷物を手伝おうとした男性の親切行為によって割れてしまった。残念だったが気にしてなかった。しかしその男性はそれから1か月後になんとその卵をわざわざ島から私に届けに来てくれた。

 

当たり前のように親切が出来るところ、PNGの好きなところだ。

12/02/10 Term 1 始動

金曜日。久しぶりに書く。

1月最終週から学校の教師だけ先に働き始めた。大体の教師はきちんと来て、今年から始まるという新カリキュラムにどのように対応するか話し合っていた。同僚のうち、理数科教師が一人去った。Mr.N、不満はお互いあっただろうが、一番話をしてきた同僚だっただけにさびしい気持ちもある。

ともあれ自分の授業数は2倍になった。再びgrade9の理科を教えるほか、Grade11のGeology(地質学)という科目を持つことに。実際は日本の地学にあたる。新カリキュラムによって増えた科目、前例も教科書も無い。うすっぺらい指導要領・・にあたるカリキュラム。しかしそれには方針が示してあるだけで、具体的に何を教えれば良いか書いていない。

「S(私)は地学を専攻してたんでしょ!じゃあ、きまりだ。」

これを引き受けたとして、多分誰も引き継げないだろう。知識も教科書もなければ、こちらでは授業は作れない。私から言わせれば、生徒用の教科書で勉強して、それで生徒に教えるのは勉強不足だ。僕の居る間だけのレッスンになる・・。長期的な学校の変化には貢献できないだろう。それでも引き受けた。数人でも地学を学びたいという生徒が居て、自分が提供できる。それで十分と思った。国全体を変えられないようなこと以外しない、学校全体を変えられるようなこと以外しないということも可能である。

目の前の人にとって、何かいいことが出来るならそれで立派だと。自分に自信のないことが山ほどある。教員不足について疑問を持っていることには変わりがない。しかし、自分は少なくとも彼らのような大量の授業をこなせないし、寮の世話や学校の運営にまでなかなか手がつけられない。彼らはそれをなんとかやっている。やり方、マネージメントに問題があるのかもしれない。でもそれを自分が改善できる自信も無い。

というのも、2月で学校が始まってもう2週間が過ぎた。

第一週は生徒たちが来て、登録、授業料支払いなどの事務的作業を手伝った。親御さんも生徒についてきたが、アルファベットが読めなかったりする人もいる。書類の内容をピジン語で説明。そしてここにサインして下さい。「サインが書けない・・・」。字が書けない、読めないと、政治家のひどいお金の使い方、教師の怠慢、新サービスの提供など、彼らの生活は届かなくなってしまう。

grade9の新入生には比較的すぐに授業を始められた。しかし、grade11は1週間以上授業開始を待たされた。それは時間割りが出来ていないからであった。grade11も新入生である。選択科目が多いが故、それをマネージできなかった。というよりまだ完成していない。1学期の学習計画を作った、そうとう余裕を持って作ったが、それでもこれだけ授業が無いと、現実に運用するのは難しくなっていく。

隣の高校のYさんが来て、今度4月にこの島マヌスである青年海外協力隊のPNG理数科教師の集まり、分科会について語った。沢山日本の教師が来るのだから、普段突っ込まないような本質的なことを現地の教師と共有する機会にしたい。首都では他の州のボランティア教師に「マヌスの空気はなんかすごい」と言われた。私とYさんにある問題に本気で取り組もうという熱さに対しての褒め言葉だと理解している。